すっかり忘れていたもの

高校を卒業して以来、全くと言っていいほど触れていなかったこの学問の扉を、三十路を迎えた今になって再び叩くことになろうとは、露ほども思っちゃいなかったんだが。。。

きっかけはたまたまWEBで見つけたこの本。

(ちなみに、読書評を書くつもりはない。だって、自分がわざわざ書かなくたって同じ様な読後感を抱いた他の読者の皆様方が秀逸なレビューをわんさと書いているのだから。いくら末席であっても構わないと言ったって、そんな環境にいまさら質の悪い記事を付け加える必要性も無いと思うのだ。)

で、たぶん仕事の合間の息抜きでWEBをぼんやりと見ていた時だったと思う。ECサイトの商品ページだった。ふと引っかかる気がして、よくよくそのページに書いてある商品説明とかに目を通しているうちに、妙に居ても立ってもいられない気分になってきた。
それは、そう、初めての体験に近かった。いくら小説とはいえ、何せ相手は「数学」を題材に書かれた本だ。小学校の算数に始まって中学/高校数学と、全く持って興味を持って取り組めたことの無い自分が、「数学」(しかも、高等数学の部類)を題材にした本に対してこんな気持ちになることが、本人をして一番信じがたい現象なのだから。

まぁ、何はともあれ、結局はその週のうちに本を手に入れ、読み始めた。

そしてそれによって自分の中にあった数学に対する偏見というか、嫌悪感というか、あるいは単なる苦手意識なのか、適切に表現できる言葉が見つからないのでアレだが、そういったモヤモヤしたものを、この本はいくらか取り払ってくれた。そう、綺麗さっぱり、とはいかないところもあるのだ。少なくとも自分にとっては、だけれども。
読み終えた後、さらに続編があることを知ってそれを手に取ってみた。

こちらはかの有名な「フェルマーの最終定理」が副題にある通り、16世紀の数学者ピエール・ド・フェルマーが残した本の余白の書き込みを巡って繰り広げられた、350年に及ぶ数学者達の格闘の跡を辿る内容だが、内容の高度さを考えると高校生が主人公というのは少々無理がある気もした。まぁ。そこは小説なので。

そしてこれらの本を読んだ上で、気になったのがこの本だった。

調べると、数年前にBBCが作成したドキュメンタリー番組に関わった人物の手になる作品だという。考えてみると、自分はその番組をNHKかどこかで放送していたものを観た記憶があった(具体的にいつ、どこで観たのかはすっかり忘れてしまっていたが)。そこが自分の琴線に触れたようだった。

それで、かどうかは分からないが、久々に本を読むことに没頭する時間が取れた。本当に本の中の人物達のことで頭の中が占拠されるような感覚を覚えたし、それは本当に久しぶりのことだったからだ。会社帰りに終電をうっちゃって家と逆の方に出向いて、喫茶店で朝まで読んでみたりもした。これほど「次が気になる」状態にさせられた本は久しぶりだった。


そして今、数学をもう一度やり直してみたいと思っている。とは言ってもここに挙げた本に出てくるような高等数学には遠く及ぶものではなく、それこそ中学生のレベルから復習しないといけないくらい、本当の意味でゼロからの挑戦になると思う。それでも今の自分が「数学」を自分から自発的にやり直したいと思うこと自体、過去数年間の自分からは考えられないことだ。読んだ本の影響で何かを始めるというのは、動機としてはあまりにも安直に過ぎるのだろうけれど、案外人が何かを始めたりするきっかけというのはそれくらいの、日常の中にいくらでも転がっているものの一つなのかも知れない。